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 促されるまま、私はロゼッタさんの後を追った。

 案内されたのは、広大な敷地の奥に位置するメイド棟だった。

 移動の最中、私はこのベルンハルト邸の圧倒的な規模に改めて息を呑む。

 邸宅を囲む庭園というよりは、もはや一つの森を丸ごと所有しているかのような広大さだった。

 中央にそびえ立つ本邸は、流麗な曲線美と要塞のような堅牢さが共存する、五階建ての荘厳な建築物だった。

 敷地内には魔導具と思われる街灯が等間隔に配置され、青白い光が木々を照らし出し、幻想的な夜景を形作っている。

 本邸から歩くこと十分ほど。

 ようやく辿り着いたメイド棟は、私の予想を良い意味で裏切るものだった。

 奉公人の詰め所らしい殺風景な場所を想像していたのだが、そこにはかつて私が通っていた貴族学園の寄宿舎を彷彿とさせる、気品ある三階建ての洋館が佇んでいた。

 そこに至るまで、私は最後尾を無言でついていった。

 時折、ロゼッタさんが私が脱落していないかを確認するように冷ややかな視線を送ってくる以外は、一切の会話はない。

 棟の入り口で、先行していた若いメイドたちは私に一度だけ鋭い拒絶の視線を投げつけると、示し合わせたように建物の中へと消えていった。

 夜の静寂の中、入り口には私とロゼッタさんだけが取り残される。

「ここが、これからあなたが住むことになるメイド専用の寮よ」

「は、はい……」

「入るわよ」

 彼女の短い号令に従い、私は一歩、寮の中へと足を踏み入れる。

 内部は落ち着いた木造の設えだった。

 使い込まれた艶のある木材は、おそらくは最高級のオークか何かなのだろう。年月を経てなお、堅牢な造りは一歩歩いても軋み一つ立てない。

 鼻腔をくすぐる、芳醇で落ち着いた木の香。

 その温かな香りは、張り詰めていた私の心に、うっすらとした安らぎを運んでくれた。

 ロゼッタさんの足取りは驚くほど速く、そして無駄がない。

 背筋をぴんと伸ばし、節度ある所作で廊下を往く彼女の背中には、厳格なプロとしての風格が漂っていた。

 廊下は長く、左右には整然と扉が並んでいる。

 この遅い時間、すべての扉は固く閉ざされており、物音一つしない。その徹底した静寂は、ここが軍人の規律に準じた場所であることを物語っていた。

 私は彼女のスピードに遅れまいと必死だった。

 余計な足音を立てて叱責されるのを恐れ、抜き足差し足で走るようにして彼女を追う。物音を立てずにこれほどの速度で歩ける彼女の身体能力に感心していた、その時だった。

 前を行くロゼッタさんが、前触れもなくぴたりと足を止める。

 私は危うく彼女の背中に激突しそうになり、喉元まで出かかった悲鳴を飲み込んで、ギリギリのところで踏みとどまった。

 姿勢を整え、息を呑んで彼女の反応を待つ。

 ロゼッタさんは緩慢な動作でこちらを振り向いた。

 その冷徹な眼差しが私を射抜く。

「ここがあなたの部屋よ」

 ロゼッタさんが立ち止まったドアには、一枚のネームプレートが掲げられていた。

『クロエ』

 どこか聞き覚えのある名だ、と私は思う。

 いや、聞き覚えがあるどころではない。私の知人にも同じ名の少女がいる。

 けれど、別に珍しい名前でもないわ、と思い直しながら、私は高鳴る鼓動を抑えながら居住まいを正した。

 ロゼッタさんが、短く、節度のある音でドアをノックする。

「はい!」

 中から返ってきたのは、弾けるような高い声だった。

 甲高いというよりは、まだ幼さの残る、鈴を転がしたような愛らしい音調。

 続いて、トタトタと小気味よい足音が近づき、間もなく勢いよくドアが開け放たれた。

 そこに姿を現したのは、一人の少女だった。

 小柄な体躯に、肩まで伸びた艶やかな濃茶の髪。

 健康的な肌には、愛嬌のあるそばかすが点々と散らばっている。十四歳ほどに見えるその少女が、私を視界に入れた瞬間――。

 私と彼女の瞳が、同時に大きく見開かれた。

「クロエ?!」

「エルナ様?!」

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