🌙オフィスラブ 🌙ラブコメ 🌙溺愛 🌙ギャップ萌え 🌙銀髪 🌙イケメン上司 🌙秘密 🌙銀杏
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都会の秋は、残酷なほどに美しい。
オフィス街を彩る銀杏(いちょう)並木は、朝の光を浴びて黄金色に輝いている。
だが、その足元には、優雅な景色を台無しにする「爆弾」が大量に転がっていた。
私、紗枝(さえ)は、パリッとしたブラウスの襟を正し、隙のない「デキる女」の顔でその横を通り過ぎる。
左手の薬指には、シンプルで上品な銀の指輪。
もちろん、安物のシルバー製だ。
これをはめて「愛妻家(嘘)の夫がいる既婚者」を演じることで、面倒な誘いや社内の人間関係をすべてシャットアウトしてきた。
この指輪は、私を都会の荒波から守る盾なのである。
だが、私の本性は、この盾の裏側に隠されている。
(……ああ、あそこに落ちているあの子、なんて立派な実なの。今夜、誰かに踏まれる前に助け出してあげたい……!)
私の真の趣味。
それは、落ちている銀杏を拾い、完璧に下処理して塩焼きにすること。
昨夜、私は我慢できずに深夜の公園へ繰り出した。
街灯の下、怪しい人影と思われないよう必死で拾い集めた宝石たちは、今、私のバッグの底にあるジップロックの中に鎮座している。
「おはよう、紗枝さん。今日も完璧な身なりだね」
背後からかかった声に、心臓が跳ねた。
振り返ると、そこには我が社の常務、桐生(きりゅう)蓮が立っていた。
磨き上げられたプラチナ、あるいは「銀」そのもののような美しい髪。
冷徹で、美しい瞳。
「……おはようございます、桐生常務」
私は完璧な微笑みを返した。
だが、その瞬間。
運命の歯車が、最悪の方向へ回り出した。
エレベーターの中は、私と常務の二人きりだった。
密閉された、わずか数平米の空間。
突然、桐生常務が鼻をピクリと動かした。
「……紗枝さん」
「はい、何でしょうか」
「……なんだか、この空間。異様な匂いがしないか?」
血の気が引いた。
バッグの中を確認する。
まさか。
昨夜、欲張って詰め込みすぎたせいで、ジップロックの封が甘くなっていたのか?
「……そうでしょうか? 誰かが香水でも溢したのでは……」
「いや、これは香水などという高尚なものではない。……もっとこう、野生的な、生命の危機を感じるような……」
常務が、すい、と私の顔を覗き込んできた。
至近距離で揺れる銀色の髪。
眼鏡の奥の鋭い瞳が、私のバッグを射抜く。
「そのバッグ、何か入ってるのか?」
「ひ、機密事項です!」
「そうか。まあ、とにかく……。君、くさいよ」
「…………………」
くさい。
イケメン上司に、人生で最も言われたくない言葉を叩きつけられる。
心の中の盾が、音を立てて砕け散った。
だが、このまま引き下がるわけにはいかない。
このまま「異臭OL」というレッテルを貼られるなんて、もはや社会的処刑と同じだ。
とにかく事情を説明したらちょっとでもダメージを修復できるのかなと思って、私はまず面談を申請した。
「じょ、常務!別室でお話させてください。これは……その、機密に関わる重大な釈明が必要な事案なんです!」
私のあまりの剣幕に、桐生常務はわずかに眉をひそめたが、
「……いいだろう。来なさい」
と短く答えた。
こうして、私たちは最上階の特別会議室で、二人きりになったのだった。
***
最上階の特別会議室。
私はデスクにバッグを置き、震える手でジップロックを取り出した。
中には、茶色い果肉が潰れ、見るも無惨な姿になった銀杏たちが、その「芳醇すぎる香り」を放っている。
「……これを、拾ったのか。昨夜、公園で」
「…………はい」
私はもう、すべてを諦めた。
「笑ってください。そうです、私は都会の女を気取った、ただの銀杏マニアです!これが私です、こんなやつ、ぜひクビにしてください!」
自暴自棄になって叫んだ私に、桐生常務は……あろうことか、クスクスと笑い始めた。
「……面白いな。君のその完璧な仮面の裏が、まさかこんなに『くさい』ものだったとはな」
常務は自ら給湯室へ行き、封筒と水、そして皿を持ってきた。
彼は慣れた手つきで銀杏を封筒に入れ、電子レンジで加熱し始めた。
パン、パンッ、と弾けるような音が響く。
「さあ、剥いてみろ。君が命がけで守った『本性』を」
私は戸惑いながらも、熱々の銀杏の銀色の硬い殻を、指先で割った。
パカッ、と現れたのは、翡翠色に輝く、艶やかな実。
「……どうぞ。一番いいやつです」
差し出した実を、桐生常務は迷いなく口に放り込んだ。
「……旨い。なるほど、この味のために君はプライドを脱ぎ捨てたわけだ」
常務は銀色の眼鏡を外し、私をじっと見つめた。
その瞳は、いつもの冷徹さではなく、どこか熱っぽい光を帯びている。
「私はね、紗枝さん。嘘ばかりのこの街に飽きていたんだ。君のような、どこか臭くて、必死で、中身が詰まった人間が……ずっと、欲しかった」
「……えっ?」
常務が、私の左手を掴んだ。
彼は、私の指から安物のシルバーリングを、ゆっくりと抜き取った。
「こんな偽物の盾は、もう必要ない。……君のくさい本性は、僕がすべて買い取ろう」
「常務、な、何を……」
「契約だ。明日からは、僕が用意する本物の銀(プラチナ)をつけろ。……その代わり、二度と公園で銀杏は拾わせない。君が欲しければ、私が毎日、最高級の料亭の銀杏を食べさせてやる」
これは、プロポーズなのか、それとも新手の監禁宣言なのか。
「だから……」
彼が、とどめを刺す。
「俺と付き合ってくれないか?」
そして私はただ、
「……はい」
と、答えるしかなかった。
窓の外では、風に吹かれた銀杏の葉が、銀色の光を反射しながら舞い落ちている。
私の盾は失われたけれど。
銀杏の代わりに拾ったのは、銀髪のイケメン上司。
私の秋の収穫は、予想外に『おいしい』結果となったのだった。
~fin~
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